株式会社GKグラフィックス
取締役
木村雅彦 様
主にタイポグラフィを中核に、企業や自治体のブランド・コミュニケーションやサイン・システムのデザイン、商品開発に携わる傍らで、大学等でタイポグラフィを中心とした研究、教育を行う。京都精華大学客員教授、朗文堂新宿私塾講師、タイポグラフィ学会副会長。
職人気質とビジネス感覚。
武蔵塗料様から企業ブランディングの一環として視覚要素のリブランディングをご依頼いただいたのは、もう10年ほど前のことになります。まず様々な方にインタビューを行い、ブランドの価値や中核となる要素を探すところから始めました。武蔵塗料様のビジネス領域である色や素材感というものは、数値だけでは表せない人間の感性に関わるものであり、文化や個人差によっても受け取り方の異なるものです。そういった複雑な対象をコントロールする職人技と、その一方で様々な顧客やクリエイターからは「武蔵にしかできない」そんな声を数多く聞き、長期に渡る信頼関係がビジネスに繋がっているという印象を受けました。職人気質とビジネス感覚、この二つが社員一人一人の豊かな人間性の上に両立し、そしてその人間性を育む気風が組織にある。私にはそれこそが武蔵塗料様の独自性であり、強みの源泉であると感じました。
大人のブランディング。
人間は目から入った文字情報を脳内で一旦「声」に変換して認識します。つまり、書体やその読み方は意味内容の認識に大きな影響を及ぼすのです。そういう意味で企業ブランディングにおける書体の選択と制御は、まさに企業の「声」をつくることに他なりません。武蔵塗料様の場合、高い感性を感じさせるセンシティブなブランディングが適合していると判断した私たちは、シンボルマークの赤と相性のよいクール系のグレイの色彩を文字部分に採用し、書体はフランスの小さな書体制作会社のものを選定しました。私たちのプログラムの狙いは、ドラスティックに価値観を変革するのではなく、長い時間をかけて外部からの認識に変化をもたらすことにありました。いわば「大人のブランディング」とも呼ぶことができる試みで、私にとっても非常に興味深い体験でした。あれから10年の時が過ぎ、プロジェクトの成果物は、さらに成熟された現在の武蔵塗料様の姿にしっくりと馴染んでいるようで、大変うれしく思っています。